相続した実家や土地を売ろうとするとき、多くの人が気にするのは「建物が古いこと」です。でも、買取の現場を長く見てきた立場から言うと——戸建てや土地の相続で本当に怖いのは、建物よりも”土地そのもの”に埋まっている落とし穴です。
私は、相続物件を買い取る側にいた人間です。これまで300件以上の不動産買取に携わり、その中で相続した戸建てや土地も数多く扱ってきました。査定し、価格を出し、実際に仕入れて再販する——その立場で、「一見普通に見える土地が、実は売りにくい」というケースを何度も見てきました。
マンションの相続とは、注意すべきポイントが根本的に違います。この記事では、戸建て・土地の相続で、売主が知らずに損をしやすい落とし穴を、買取のプロの目線で明かします。これを知っておくだけで、売却の進め方が大きく変わります。
(相続不動産の売却全般については、別記事「相続した不動産、買取と仲介どっち?」もあわせてご覧ください。)
相続不動産の売却全体の流れは「相続した家・土地を売る手順のまとめ」にまとめています。
💡 まず自分の物件がどう評価されるか知りたい方へ
戸建て・土地は、建物・土地・権利のどこに評価のポイントがあるか、素人には判断が難しいものです。まずは複数社に無料査定を依頼して、実態を把握するところから始めましょう。
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落とし穴①:建物は「直せる範囲」を超えると価値にならない
古い戸建てを相続すると、「リフォームすれば高く売れるのでは」と考える人がいます。でも、そう単純ではありません。
私が以前いた会社では、インスペクション(住宅診断)を入れてから買取判断をしていました。 そして、主要な構造部分に瑕疵があったり、建物が傾いていたりする場合は、基本的に買取を見送っていました。
理由は、リフォームして再販するという視点で考えると、工事費がかかりすぎて採算が合わないからです。構造からやり直すような工事になると、リフォーム費が膨らみ、直したところで新築との価格差がつかなくなる。つまり「大金をかけて直しても、それに見合う価格で売れない」状態になるのです。
ここが、売主が誤解しやすいポイントです。「古い家=リフォームして高く売る」は、傷みが表面的なうちの話。構造や傾きに問題が及ぶと、リフォームでは価値を取り戻せない——これが買取のプロの見立てです。
買取業者は、建物の値段をこうやって数字で出している
少し専門的になりますが、査定の内側を知っておくと役に立つので、お見せします。買取業者は、査定のとき土地の価格と建物の価格を分けて計算します。
建物の価格は、新築時の建物価格を、構造ごとの「耐用年数」で割り、残っている年数(残存年数)を掛けるという考え方で、経年で目減りした現在の価値を出します。これは減価償却という仕組みで、建物は年々価値が下がっていく前提で評価されるのです。
この「耐用年数」は、建物の構造によって大きく違います。国が税金計算のために定める法定耐用年数では、こうなっています。
- 木造:22年
- 軽量鉄骨造:27年(骨格材の厚みによる)
- 鉄筋コンクリート造(RC造):47年
木造は価値の目減りが早く、RC造はゆっくり。(※これは税務上の年数で、実際の建物の寿命そのものとは別ですが、査定ではこれをベースに市場での価値を見て評価します。)ちなみに、多くの金融機関が住宅ローンの融資期間を「耐用年数−築年数」で決めるため、耐用年数を大きく超えた古い建物は、買い手が融資を受けにくく、その分売りにくくなる——という事情もあります。
こうして出した建物の現在価値をベースに、買取業者は3つの出口を比較検討します。
- リフォームして市場に出し、競争力のある価格で売れるか
- 解体して、土地として売る方がいいか
- 建て替えて、建売住宅として売る方がいいか
どの出口が一番採算に合うかを調査したうえで、そこから逆算して買取価格を提示します。だから、同じ「築古の家」でも、リフォーム向きか・土地向きか・建売向きかで、値段の付き方がまったく変わるのです。そして、前に述べたように構造や傾きに問題があると、1のリフォームという出口が消え、2や3を前提にした価格にならざるを得ない、というわけです。
落とし穴②:「土地として売る」なら、今度は解体費が効いてくる
建物に価値が見込めない場合、「更地(土地)として売る」という選択肢が出てきます。この場合、建物の状態そのものは大きな問題になりません。買い手は建物を壊す前提だからです。
ただし、ここで別のコストが効いてきます。解体費です。
そして解体費は、建物の造りによって大きく変わります。木造に比べて、鉄骨造や鉄筋コンクリート造(RC造)は解体費が高くなります。 頑丈な分、壊すのに手間とコストがかかるからです。
土地として売る場合、この解体費は最終的に価格から差し引かれる形になります。つまり、「土地の値段は出るけれど、頑丈な建物が建っているせいで、解体費の分だけ手取りが減る」ということが起こり得るのです。相続した実家が鉄骨や鉄筋の造りなら、ここは頭に入れておく必要があります。
落とし穴③:接道と私道──ここが一番の地雷
ここからが、この記事で一番お伝えしたい部分です。戸建て・土地の相続で、最も見落とされやすく、最も深刻なのが「接道」と「私道」の問題です。
私道に接している土地は、それだけで価値が下がる
土地は、必ずどこかの道路に接しています。その道路が公道か私道かで、話は大きく変わります。
公道であれば、水道やガスなどのインフラ工事も、手続きを踏めば確実に許可されます。ところが私道は、その道路の所有者の承諾がなければ、通行やインフラ工事に制約がかかることがあります。
そのため、私道に接した土地は、それだけで評価が下がりやすい。一般に、私道に接している家の価格は、公道に面した近隣物件の7割程度が相場とされるほどです。
「私道の持分がない+掘削承諾がもらえない」土地は、買取業者が最も嫌う
私道の中でも、買取業者が本当に警戒するのが、私道の持分を持っておらず、かつ「通行・掘削承諾書」がもらえない土地です。私が現場にいたときも、こうした物件は基本的に見送っていました。
なぜか。この承諾がないと、こういうことが起こり得るからです。
- 水道管・ガス管の引き込みや交換のための掘削ができない
- 建て替え(再建築)のときにインフラ工事ができず、事実上建てられない
- 住宅ローンの担保評価が下がり、買い手が融資を受けられない・減額される
つまり、「家は建っているのに、いざ工事や建て替えをしようとすると詰む」土地になってしまう。これは相続した本人が住んでいる分には気づきにくく、いざ売ろう・建て替えようとして初めて発覚する、典型的な落とし穴です。
補足:2023年の法改正で、少しだけ状況は変わった
正確にお伝えしておくと、2023年4月の民法改正で、他人の土地にライフライン設備を設置する権利(設備設置権)が明文化されました。それまでは掘削承諾書が事実上の絶対条件で、拒否や法外な承諾料でトラブルが多発していたため、この改正は一定の救いになっています。
ただし——「承諾書がなくても絶対大丈夫」になったわけではありません。 実務では、水道局やガス会社の運用上、今も承諾書の提出を求められる場面が残っています。法律が変わっても、「私道持分なし・承諾なし」の土地が売りにくいという現実は、まだ続いていると考えておくのが安全です。
📌 接道を満たさない土地は「再建築不可」と言われることがあります。その場合でも、43条但し書きや業者選びで道が開けることがあります。詳しくは別記事「相続した土地が「再建築できないかも」と言われたら」で解説しています。
落とし穴④:私道は「行政が動いてくれない」
私道の怖さを、私自身が痛感した実例をお話しします。
ある土地は、南側の公道と、北側の私道の両方に接していました。北側の私道側にはフェンスがあって直接は出られないのですが、その私道に、放置自転車が10台ほど停められていたのです。
そこで、その区の放置自転車撤去の窓口に連絡しました。最初は「対応します」との返事。撤去には、まず1週間「どかしてください」と告知し、それでも動かなければさらに1週間の告知を経て撤去する、という流れだと説明を受けました。
ところが、2週間後に行ってみても、自転車は撤去されていません。窓口に問い合わせると、返ってきたのは——「私道では対応できない」。
これが、公道と私道の決定的な違いです。行政が管理して撤去などの対応をしてくれるのは公道だけ。私道は、たとえ放置自転車のような迷惑物であっても、行政は基本的に動けないのです。私道は所有者どうしで管理し合うもの、という原則があるためです。
(余談ですが、このときは窓口の担当者が「私道だから撤去できないんです。これがヒントだと思ってよく聞いてください」と、遠回しに解決策を示唆してくれました。「公道側に出してもう一度連絡すればいい」ということです。こうした裏の事情まで含めて、私道の扱いは公道とはまるで違います。)
相続した土地が私道に接している場合、日常のこうしたトラブルすら、自分たちで解決しなければならない。これも、私道物件が敬遠される理由のひとつです。
落とし穴⑤:戸建ては「近隣トラブル」が売却後まで尾を引く
マンションと違い、戸建ては隣家との距離が近く、近隣関係が売却や工事に直接影響します。
私が実際に経験したものだけでも、こんなことがありました。
- 外壁の塗り替えのために、近隣の車を移動してもらわなければならなかった
- 塗装中にペンキが隣家に飛んでしまった
- 工事中に隣家の室外機を壊してしまった
こうした近隣トラブルは、そのたびに対応が必要で、想像以上に労力がかかります。売主が住んでいたときには表面化していなかった隣との関係が、いざ工事や売却を進めると一気に問題になることもある。戸建ての相続では、建物や土地だけでなく、「隣との関係」も見えないリスクとして存在するのです。
まとめ:戸建て・土地の相続は「建物より土地」を先に見る
相続した戸建てや土地を売るとき、多くの人は建物の古さばかり気にします。でも、本当に価格や売りやすさを左右するのは——
- 建物:構造・傾きに問題があると、リフォームしても価値にならない
- 土地:鉄骨・RCなら解体費が高く、手取りが減る
- 接道・私道:持分なし・掘削承諾なしは、売却・建て替え・融資で詰まりやすい(最重要)
- 私道:行政が動いてくれない。日常トラブルも自己解決
- 近隣:戸建ては隣との関係が売却・工事に直結する
これらは、素人が図面や登記を見ただけでは判断が難しいものばかりです。特に接道と私道の問題は、専門家でも見落とすことがあります。
だからこそ、相続した戸建て・土地は、まず不動産のプロに査定してもらい、”自分の物件に地雷が埋まっていないか”を早めに把握することが、損をしないための第一歩です。こうした複雑な物件こそ、買取業者はリスクを理解したうえで引き受けられます。
(買取が安くなる理由や、業者がどんなリスクを見ているかは、別記事「相続した不動産、買取はなぜ安い?」で詳しく解説しています。)
💡 次の一歩:まず実態を把握する
戸建て・土地は、査定を受けて初めて「思ったより高い/実は問題がある」が分かります。まずは無料で複数社に査定を依頼し、自分の物件の本当の姿を知るところから始めましょう。
※対応エリア:東京・埼玉
📌 あわせて読みたい:古家付きの土地を相続したなら、そのまま売る?解体して売る?──先に壊すと損する理由。
よくある質問(FAQ)
Q. 古い実家は、リフォームしてから売った方が高く売れますか?
傷みが表面的ならリフォームで価値が上がることもありますが、構造や傾きに問題が及んでいる場合は、工事費がかかりすぎて採算が合わず、直しても価格に反映されないことがあります。まず現状で査定を受け、リフォームすべきかをプロに判断してもらうのが安全です。
Q. 私道に接した実家を相続しました。売れますか?
売れないわけではありませんが、私道の持分の有無や、通行・掘削承諾書があるかで、売りやすさと価格が大きく変わります。持分がなく承諾も得られない場合は、インフラ工事や再建築に支障が出ることがあるため、早めに状況を確認することをおすすめします。
Q. 更地にしてから売った方がいいですか?
一概には言えません。解体費は建物の造り(特に鉄骨・RCは高い)によって変わり、更地にすると固定資産税の軽減がなくなる場合もあります。古家付きのまま売るか更地にするかは、査定を受けて総合的に判断するのが得策です。
Q. 境界が確定していない土地でも売れますか?
売却時に境界の確定を求められることが多く、隣地所有者の立会いによる測量が必要になる場合があります。時間がかかることもあるので、売却を考え始めたら早めに確認しておくとスムーズです。
この記事の書き手について
不動産買取の現場に長く携わってきた宅地建物取引士。これまで300件以上の不動産買取に携わり、その中で相続した戸建て・土地も数多く手がけてきました。仲介業者・弁護士から相続案件の紹介を受け、査定・仕入れ・再販を行ってきた「買い取る側」の視点で、相続不動産の売却を発信しています。
