親が亡くなり、実家や土地を兄弟・親族の複数人で相続した——。このケースは、1人が単独で相続する場合と比べて、売却の難易度が段違いに上がります。
私は、相続物件を買い取る側にいた人間です。これまで300件以上の不動産買取に携わり、相続人が複数いる物件も数多く手がけてきました。その中で、「複数人の相続だからこそ、売買がここで止まる」というパターンを、何度も現場で見てきました。
この記事では、兄弟・複数人で相続した不動産を売るときに、必ずぶつかる”壁”を、買取のプロの目線で正直にお伝えします。先に知っておくだけで、揉めごとや時間のロスを避けられます。
(相続不動産の売却全般は、別記事「相続した不動産、買取と仲介どっち?」もあわせてご覧ください。)
相続不動産の売却全体の流れは「売却全体の流れと手順」にまとめています。
💡 まず現状を把握したい方へ
複数人での相続は、進め方を間違えると時間がかかります。まずは物件がいくらで売れるのかを知り、話し合いの土台を作るところから始めましょう。
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大前提:相続人「全員の同意」がないと、1ミリも売れない
複数人で相続した不動産を売るとき、まず絶対に知っておくべきことがあります。それは——相続人全員が同意しないと、売却は一切進められないということです。
遺言書がない場合、誰がどの財産を相続するかは、相続人全員が参加する「遺産分割協議」で決めます。そして、1人でも欠けた遺産分割協議は無効です。連絡が取れない人を除外して、話せる人だけで決める、ということは法律上できません。
この合意を書面にしたのが遺産分割協議書で、相続人全員の実印と印鑑証明書が必要です。1人でも押印が得られなければ、名義変更(相続登記)も、その先の売却もできません。
私が相続物件を査定するとき、真っ先に「遺産分割協議書はできていますか?」と確認するのは、これがあって初めて契約に進めるからです。逆に言えば、複数相続人の売却は、この”全員の同意”をどう取りつけるかが最大のヤマになります。以下、その過程で実際にぶつかる壁を挙げていきます。
壁①:相続人が遠方に散らばっていて、集まれない
兄弟がそれぞれ別の土地で暮らしている、というのはよくあることです。すると、契約や書類のやり取りで、こんな問題が出ます。
- 契約のたびに全員が一箇所に集まるのが難しい
- 書類(協議書・印鑑証明など)を郵送で何度もやり取りする必要がある
- 1人でも段取りが遅れると、全体が止まる
実務上は、全員が集まって契約するか、委任状で代表者1人が手続きを進めるか、どちらかで対応します。書類を郵送で持ち回り、署名・実印・印鑑証明を集めていく形も一般的です。
私自身、相続人が遠方に住んでいたケースでは、現地(相続人が東北に住んでいたときには、その方のもとまで)出向いて契約したこともあります。 複数相続人の売却では、「全員の段取りをどう合わせるか」だけで、想像以上の手間と時間がかかるのです。
壁②:相続人の1人と連絡が取れない
複数相続人の売却で、最も手続きが止まるのがこれです。相続人の中に、連絡が取れない人がいるケース。
前述の通り、全員の同意がなければ協議は無効なので、連絡が取れない1人がいるだけで、売却は完全にストップします。この場合、順を追って対応することになります。
- まず、その人の戸籍の附票を取り寄せて住所を調べる
- 住所は分かっても本人がそこにいない・行方不明の場合は、不在者財産管理人の選任や失踪宣告といった裁判所の手続きが必要になる
- 連絡はつくが協力を拒否する場合は、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てる
いずれも時間と費用がかかり、専門家(司法書士・弁護士)の力が必要になることがほとんどです。「兄弟の1人と何年も音信不通」という状態は、相続の場面では想像以上に重い足かせになります。
壁③:話している間に相続人が亡くなる(数次相続)
これは見落とされがちですが、買取の現場では実際に起こる、深刻なリスクです。遺産分割がまとまらないまま時間が経つうちに、相続人の1人が亡くなってしまうケースです。
相続人が亡くなると、その人の持分は、さらにその子どもたちへと相続されます。これを数次相続といいます。たとえば、兄弟3人で相続していたところ、話し合いが長引く間に1人が亡くなると、その持分がその配偶者や子ども2人に分かれ——気づけば関係者が5人、6人と増えていく。
権利者が増えるほど、全員の同意を取るのは難しくなります。「あと一歩で協議がまとまりそうだったのに、1人亡くなって振り出し以上に複雑になった」ということが、現実に起こるのです。
だから、複数相続人の不動産は、「早く動く」ことが何よりも大事です。放置すればするほど、権利関係は雪だるま式に複雑になっていきます。
壁④:戸籍を調べたら「知らない相続人」が出てくる
もう1つ、複数相続人の売却で実際にある落とし穴が、想定していなかった相続人の存在です。
相続手続きでは、亡くなった方の戸籍を出生から死亡まですべてたどって、相続人を確定させます。このとき、家族が知らなかった相続人が出てくることがあります。
- 被相続人が再婚していて、前の配偶者との間に子どもがいた
- 被相続人が認知していた子どもがいた
いわゆる「隠し子」が、戸籍を調べて初めて判明する、というケースです。私が関わった案件でも、こうした想定外の相続人が出てきたことがありました。
ここで重要なのは——その人も正式な相続人である以上、その同意がなければ協議は無効だということです。「知らなかった」「会ったこともない」では済まされず、その人を含めた全員で遺産分割協議をしなければ、不動産は売れません。複数相続人の売却では、まず戸籍で相続人を正確に確定させることが、すべての出発点になります。
だから、複数相続人の物件は「買取」と相性がいい
ここまで読むと、複数人での相続がいかに面倒かが分かっていただけたと思います。全員の同意、遠方との調整、連絡の取れない相続人、数次相続、想定外の相続人——これらを抱えたまま、仲介で個人の買い手を探し、内覧や価格交渉に対応するのは、正直、相当な負担です。
こうした複雑な案件こそ、買取が向いています。 理由は——
- 買取業者は、複数相続人が絡む権利調整に慣れている
- 窓口を一本化し、代表者や専門家(司法書士)と連携して進められる
- 買い手を探す時間がいらないので、協議がまとまり次第、確実に売却まで進む
もちろん、買取価格は仲介より下がります(その理由は別記事「相続した不動産、買取はなぜ安い?」で詳しく解説しています)。ただ、複数相続人で「早く・確実に・全員が納得する形で」現金化して分けたい、というニーズには、買取がよく合うのです。
まとめ:複数相続人の不動産は「早く・全員で・専門家を入れて」
- 売却には相続人全員の同意(遺産分割協議書+全員の実印・印鑑証明)が必須。1人でも欠けると無効
- 遠方に散らばっていると、集まる・書類を回すだけで手間がかかる
- 1人でも連絡が取れないと、手続きが完全に止まる(裁判所の手続きが必要になることも)
- 放置すると数次相続で関係者が増え、さらに複雑になる。だから早く動く
- 戸籍を調べると想定外の相続人が出てくることがある。全員を確定させるのが出発点
- こうした複雑な案件は、権利調整に慣れた買取と相性がいい
複数人での相続は、「誰かがやってくれるだろう」と放置している間に、どんどん解決が難しくなります。まずは物件の価値を把握し、相続人みんなで話し合う土台を作ることから始めてください。
💡 次の一歩:話し合いの土台を作る
「いくらで売れるか」が分かると、相続人同士の話し合いは一気に進みやすくなります。まずは無料で査定を受けて、全員が納得できる現実的な数字を把握するところから始めましょう。
※対応エリア:東京・埼玉
📌 あわせて読みたい:兄弟で公平に分けるなら、換価分割──売って現金で公平に分ける方法。
よくある質問(FAQ)
Q. 兄弟の1人が売却に反対しています。売れますか?
相続人全員の同意がなければ売却できないため、反対者がいる状態では進められません。話し合いでまとまらない場合は、家庭裁判所の遺産分割調停を利用する方法があります。まず物件の価値を全員で共有し、現実的な条件を示すことで、合意に至りやすくなることもあります。
Q. 代表者1人がまとめて手続きできますか?
他の相続人からの委任状があれば、代表者が窓口となって手続きを進めることは可能です。ただし、遺産分割協議書には結局、相続人全員の実印と印鑑証明書が必要です。
Q. 相続した不動産を、売って現金で分けることはできますか?
できます。不動産を売却して代金を相続人で分ける方法を「換価分割」といいます。不動産のまま分けるのは難しいため、複数相続人では現金化して分けるケースが多く、買取はこの方法と相性がよいです。
Q. 相続人の中に認知症の人がいる場合はどうなりますか?
判断能力が十分でない相続人がいる場合、そのままでは遺産分割協議ができないことがあります。成年後見制度の利用が必要になる場合があるため、早めに専門家に相談することをおすすめします。
この記事の書き手について
不動産買取の現場に長く携わってきた宅地建物取引士。これまで300件以上の不動産買取に携わり、相続人が複数いる物件も数多く手がけてきました。仲介業者・弁護士から相続案件の紹介を受け、査定・仕入れ・再販を行ってきた「買い取る側」の視点で、相続不動産の売却を発信しています。