先に結論をお伝えします。
- 相続放棄は「最終手段」です。預貯金などプラスの財産まで、すべて失います(いいとこ取りはできません)
- しかも期限は3ヶ月、一度したら撤回できず、放棄後も管理義務が残ることがあります
- 「いらない」と思った不動産も、売る・貸す・活用する方法があることが多いです。放棄の前に、まず確かめてください
「田舎の実家を相続したけど、住む予定もないし売れそうもない。いっそ相続放棄したほうがいいのでは」——。使えない・売れない・税金だけかかる不動産、いわゆる「負動産」に悩む方が増えています。でも、ちょっと待ってください。私は不動産を買い取る側にいて、「もう価値がない」と思われていた物件が、実は手放せた・お金になったケースを何度も見てきました。放棄を決める前に知っておくべきことを、正直にお伝えします。
(田舎の売れない土地については「相続した“売れない田舎の土地”の手放し方」もご覧ください。)
相続不動産の売却全体の流れは「相続不動産の売り方の全体像」にまとめています。
💡 放棄の前に、まず価値を確かめる
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まず知るべき:相続放棄は「最終手段」
相続放棄とは、家庭裁判所に申し立てて、亡くなった方の権利も義務も一切引き継がない手続きです。「いらない不動産を手放す方法」として考える人が多いですが、実は大きな落とし穴があります。
- いいとこ取りはできない:不動産だけを放棄することは不可能。放棄すると、預貯金・株式などプラスの財産もすべて失います
- 期限が短い:相続を知った日から3ヶ月以内に申し立てが必要
- 撤回できない:一度放棄すると、後から「やっぱり」は通りません
- 管理義務が残ることがある:民法940条により、その財産を現に占有している場合、次の管理者が決まるまで管理義務が続きます。「放棄したから無関係」とはならないことがあります
つまり、相続放棄は「借金のほうが多い」「本当にすべていらない」というケースの最終手段。不動産が理由なら、放棄の前にまず”手放す方法”を検討すべきです。
放棄する前に検討したい5つの選択肢(図解)
いらない不動産を相続した
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▼
借金など負債のほうが多い?
┌───────┴────────┐
YES NO
│ │
▼ ▼
相続放棄を検討 まず手放す・活かす方法を探す
(3ヶ月以内・ │
専門家に相談) ┌────┼────┬────┬─────┐
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売る 貸す 活用 空き家 国に
(買取)(賃貸)(事業) バンク 返す
順に説明します。
① 売る(買取)── まず試すべき
「売れない」は思い込みかもしれません。一般の不動産会社が扱わない物件でも、訳あり物件に強い買取業者なら買い取れることがあります。再建築不可、残置物あり、傾いた古家——地元の不動産会社に相手にされなかった物件が、専門業者に買い取ってもらえた、という例は実際にたくさんあります。放棄や国への返還は、お金がかかったり要件が厳しかったりします。まず「売れないか」を確かめるのが、一番損の少ない出発点です。
② 貸す(賃貸)── 収益を生めば「売れる資産」に変わる
これは買取側から見ても重要な視点です。空き家は、賃貸に出して家賃収入を生むようにすると、価値が大きく変わります。 毎月の家賃で固定資産税や修繕費をまかなえるうえ、「収益を生んでいる物件(収益物件)」は、投資家にとって買う価値のある資産になります。つまり、賃貸で収益を生んでいれば、売るときにも売りやすくなるのです。「負動産」だと思っていたものが、貸すことで「稼ぐ資産」に変わる。最小限のリフォームで貸せる物件なら、検討する価値は大きいです。
③ 活用する(補助金でリフォームして事業化)
古民家カフェ、宿泊施設、シェアハウス、サテライトオフィス——空き家を事業用に再生する動きが全国で広がっています。ポイントは、多くの自治体が改修補助金(数十万〜数百万円)を用意していること。条件を満たせば、リフォーム費用の負担を大きく減らせます。ただし、立地に需要がないと事業として成り立たないため、慎重な見極めが必要です。
④ 空き家バンクに登録する
空き家バンクは、市区町村が運営する空き家のマッチング制度で、全国の約7割の自治体が設置しています。売りたい・貸したい人が登録し、田舎暮らしや移住を希望する人とつながれます。郊外の物件は一般の不動産会社が扱いたがらないことがありますが、空き家バンクなら「田舎の家に住みたい人」と直接マッチングしやすいメリットがあります。利用料もかからないことが多いので、選択肢に入れる価値があります。
⑤ 国に返す(相続土地国庫帰属制度)
2023年に始まった制度で、相続した”土地”を国に引き取ってもらえます。ただし、審査手数料(1筆1万4,000円)と負担金(原則20万円〜)がかかり、建物がある土地は対象外、要件も厳しく却下も多いのが実情です。「お金を払ってでも手放したい」土地向けの、条件付きの選択肢と考えてください。
最後に、買取側にいた私から一つだけ
「こんな田舎の、こんなボロい家、誰も欲しがるわけがない」——そう思い込んで、貴重な選択肢を試さないまま相続放棄してしまう方がいます。でも、それはとてももったいないことです。
私は買取の現場で、「もう価値がない」と諦められていた物件が、買い取られ、再生され、次の誰かの住まいや事業の場になっていくのを、何度も見てきました。あなたが「負動産」だと思っているその家は、見る人が見れば、まだ価値のある資産かもしれないのです。
だから、相続放棄という重い決断(預貯金まで失う決断)をする前に、まず確かめてください。売れないか、貸せないか、買い取れないか。 複数の業者に無料で査定を出せば、その物件の本当の価値が見えてきます。放棄はいつでもできますが(3ヶ月以内ですが)、一度放棄したら取り返せません。決断の前に、まず一歩、確かめることをおすすめします。
📌 あわせて読みたい:共有持分だけを手放したいなら、自分の持分だけ売るという選択肢(民法206条)。
よくある質問(FAQ)
Q. いらない不動産だけを相続放棄できますか?
できません。相続放棄は「いいとこ取り」が認められておらず、不動産を放棄すると預貯金など他の財産もすべて相続できなくなります。不動産だけ手放したい場合は、売却・賃貸・国庫帰属制度などを検討してください。
Q. 相続放棄すれば、その不動産の管理から完全に解放されますか?
必ずしもそうとは限りません。民法940条により、その財産を現に占有している場合は、次の管理者が決まるまで管理義務が残ることがあります。「放棄すれば無関係」と考えるのは危険です。
Q. 売れないと言われた土地でも、買い取ってもらえますか?
可能性はあります。一般の不動産会社が扱わない再建築不可・残置物あり・老朽化した物件でも、訳あり物件に強い買取業者なら買い取れることがあります。まず複数社に査定を依頼してみてください。
Q. 空き家を貸すと、売るときに不利になりませんか?
むしろ有利になることが多いです。家賃収入を生んでいる「収益物件」は、投資家にとって買う価値のある資産になるため、売却時にも買い手がつきやすくなります。
この記事の書き手について
不動産買取の現場に長く携わってきた宅地建物取引士。これまで300件以上の不動産買取に携わり、「価値がない」と思われていた負動産を、再生して次へ繋ぐ形で数多く扱ってきました。仲介業者・弁護士から相続案件の紹介を受け、査定・仕入れ・再販を行ってきた「買い取る側」の視点で、相続不動産の売却を発信しています。なお、相続放棄・国庫帰属制度・税金の具体的な判断は、弁護士・司法書士・税理士などの専門家にご確認ください。
